あめ買いゆうれい
むかしむかし、
村のはずれに、一人暮らしのじいさまがいて、
小さなあめ屋をしていたと。
ある雨の降る、晩のこと。
眠っていたじいさまは、店の戸をたたく音で、目が覚めた。
「こんな寒い夜更けに、なんの用かい」
じいさまが戸を開けてみると、白い着物姿の
若い女の人が立っている。
青白い顔で痩せてはいるが、
この辺りでは見かけない、きれいな人だ。
「かさもささんで、どうされた?」
じいさまが聞くと、女の人は弱々しい声で、
「あめを一文(いちもん)、分けてくだされ」
と、一文せんを差し出した。
じいさまが、あめをくるんで渡すと、女の人は、
丁寧に頭を下げて、帰っていった。
その日から、女の人は毎晩、じいさまの店へ、
あめを買いにくるようになった。
夜がふけると、ほとほとと戸を叩く。
そして買うのは、いつもあめ一文だけ。
じいさまが、女の人の一文せんを受け取ると、
氷のように冷たかった。
じいさまは、気味悪くてたまらない。
そこで女の人に言ったと。
「夜道はあぶなかろう。
明るいうちに、おでなはれ」
けれど女の人は、やっぱり夜がふけてからやってくる。
それが六日間続いたと。
七日目の晩、夜が更けると、また女の人がやって来た。
「あめを‥‥ 分けてくだされ」
細い細い声でそう言って、おずおず出した手に、一文せんはのってない。
じいさまが、不思議に思って顔を見ると、女の人は、
悲しそうな顔をしてうつむいた。
じいさまは何も言わずに、手にあめをにぎらせてやった。
そして女の人が帰って行くと、
(何かわけがあると見える。
いったいどこの、お人じゃろう)
と、女の人のあとを、そっとつけた。
女の人はひらひらと、白い着物をなびかせて、
すべるように歩いていく。
ところが、寺のわきにある、墓地の入り口まできたときだ。
女の人の姿が、ふっと見えなくなった。
そして、いなくなったあたりから、ぼっと、
鬼火が燃え上がった。
鬼火はひゅるひゅると、墓の間をぬっていき、
墓地の奥で、ぱっと消えた。
その鬼火の消えたところから、赤ん坊の泣く声がひびいてくる。
じいさまは、恐ろしさに声も出ない。
震える足を踏みしめて、ようやく家にたどりついた。
翌朝、じいさまは寺に行って、
おしょうさんに、今までのわけをみんな話した。
「ふーむ、あそこはこの前、
赤ん坊を身ごもったまま亡くなった、
若い人の墓があるのだが‥‥」
おしょうさんとじいさまは、
お墓のところへ行ってみた。
すると墓の下から、赤ん坊の泣き声がする。
ふたりが墓を掘ってみると、亡くなった女の人の胸に、
赤ん坊がのっていて、あめをくちゅくちゅしゃぶっていたと。
「おお、ようやった。
亡くなったときに入れてやった、
六文のぜにをつこうて、あめを買い、
生まれた子を、育てていたのじゃな」
おしょうさんは女の人にそう言って、赤ん坊を抱きとった。
赤ん坊はそのまま、おしょうさんに引き取られ、
やがて、えらい坊さんになったという。
おしまい |